この記事を読むとATRに詳しくなれますが、筆者の解釈が多く含まれています。
- スズキイチロー(36)
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- ブロガー集団・アドセンス解放戦線代表
- こじらせ団体・メンヘラの止まり木主催
- Twitterの一部界隈においてカルト的な人気と噂
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俺たちのATR・アタリティーンエイジライオット【デジタルハードコア考察】
自分が良しとしないことに賛同しなければ、自分が本当に会いたい人に出会えるんだよ。俺もそういうことをたくさん経験してきた。
アレック・エンパイア
なんだかとても生きることがツラかった時期、10代の頃。
よりヘビーなもの、ラウドなものを求めてCDやレコードを掘っていた。
自分の情けなさとか、弱さを拭き飛ばしてくれる音楽を探していたんでしょうね。
そんな時に出会ったのが、アタリティーンエイジライオットってバンドだった。
(ここからバンドのことをATRと表記)
当時好んで聴いていたレイジと同じ世代に活躍したATRは、ロックバンドの中でもかなり政治色が強い。
扇動的な2つのバンドの音は、何も持たない思春期の自分にとってほとんど唯一の武器になった。
ATRの音楽に触れてからは、誰に何を聞かれても、
「なんとなく」って言わないように心がけて生活した。なるべく。
ザックやアレックのように、全ての行動に意思を持って生きる男になりたいと思った。
ひとの知性というのは、算数が早いとか、仕事ができるとか、
そういう部分じゃないところなのだと、彼らから学んだ。
しかし俺の義務教育課程が終わるころ、レイジ・ATRのバンドは活動を休止。
その後台頭してきたレディオヘッドのOKコンピューターにハマり、
躁鬱傾向の少年の精神は、内面世界に沈んでいくこととなった。
考えてみればミーハーな思春期だったように思うし、
反面、政治性の希薄化は俺たちより下の世代が持つ特徴であるのかもしれない。
トムモレロが言うように、音楽の100%は政治的なものと言える。
権力を迎合しているか、従っているか、諦めているかの違いがあるだけだ。
とはいえ政治的な言及をしない音楽が俺たちの世代の新しい価値を生んだことは、
ある側面を切り取ればとても素晴らしいものだと思える。
それが俺たちの知らない間に「資本主義のための芸術」に貶められる危険性を孕んでいるとしても。
世の音楽作品が、偶像崇拝的な不毛なものにならないように願ってやまない。
話をATRに戻す。
ATRが我々に「行動」だとか「暴動」という言葉で訴えていたのは、なにも権力への抵抗だけではない。
例えば再結成後なんかは、政治性の希薄さの中で育った世代へのメッセージとして、
自分自身への無力感から目を逸らすな、と言っているとも取れる。
ATRはサウンドによって、自分自身の中にある停滞感をぶち壊し、打ちのめすことを求めてくる。
まさにそれは「アクション」であり「ライオット」でもある。
ATRの音楽を聴いて、こういう音楽が聴きたかったんだよな、となった多感な世代は、
バンド自身が掲げる不条理さへの反抗と、自身への無力感の打破を同時に夢見たに違いない。
事実、俺自身がそうだったのだから。
ATRのサウンドについては色々語ることができる。
異様に速いテンポであるとか、HRHMへのリスペクト、
高速なブレイクビーツ、アニメミュージックからのサンプリング、
なによりスピーカーが飛んでしまうんじゃないかと言うほどのすさまじい爆音とノイズ。
行き着くところまで来てしまったような、
ある部分での音楽としての最果てを思わずにはいられない。
ATRのサウンドはどの楽曲を取り上げてみても、既存の音楽とはかけ離れている。
定型がないのだ。おきまりのコードもメロディも構成もない。
フロアもてんでバラバラ。皆、情熱だけを頼りに動く。
ニック・エンドウの顔面タトゥーが示すように、
共通しているのは、何かに抵抗していることだけだ。
ATRの思想を少しでも理解すると、その荒々しいサウンドの解像度も自ずと上がってくる。
このバンドが生まれたのはドイツ。
ドイツの90年代初頭といえば、戦前の思想を押し出したネオナチをはじめとした過激な集団が生まれてきた時期だった。
これらの集団はファシズムを掲げ、外国人・同性愛者・自由主義の排斥運動などを行なっており、
それらへの反抗や抵抗を表現するために、ATRは生まれた。
すさまじいノイズを発しながら語られるのは、不条理な権力へ抵抗する血の滲むメッセージだ。
その言葉たちは端的でシンプルで一切ブレることがなく、その轟音に観衆は煽られ続けた。
国内であらゆる表現を禁止されたこのバンドのメッセージが、
なぜ今でも世界中の人々に響くのだろうか?
ってことで、今日は【俺たちのATR・アタリティーンエイジライオット】のお話。
アタリ・ティーンエイジ・ライオット(英: Atari Teenage Riot、ATR)は、ドイツのバンド。過激なメッセージと極端にヘヴィなサウンド・スタイルを特徴とする。また、デジタル・ハードコアの始祖でもある。
Wikipediaより
アタリティーンエイジライオット-ATRの来歴
政府は今も人殺しを続けている。そこら中で戦争が起こっているんだ! 俺たちはいつだって闘争のために音楽を作ってきた!
アレック・エンパイア
ATRの来歴を簡単に。
数回のメンバーチェンジを経たATRのオリジナルメンバーは、アレック・エンパイア(programming &shout)とニック・エンドウ(noise control)の2人だけ。
フロントマンを入れ替えつつバンドは続いている。
ATRというバンドはアレックの人生そのものだ。
社会活動家の父を持つ彼は、自身の思想を育てつつ幼少期よりパンクやテクノなどのあらゆる現代音楽に興味を持つ。
1995年にDIYの精神を体現し、実行。自主レーベルDHRを作りATRで1stアルバム【1995】をリリース。
※この1stは後にリイシューされる【Delete Yourself!】のタイトルの方が有名
強めのメッセージと強烈なサウンドが特徴のATRのデビューは衝撃的で、
アンダーグラウンド界隈を中心にバンドは注目を集めるようになる。
時代がポップミュージックから逃れようとしていた1997年に2nd【The Future Of War】を発表。
世界規模でファンを獲得し始めた1999年には3rd【60 Second Wipe Out】を投下。
迫力のある音源を次々とリリースし、鬼気迫るメッセージを発信し続けるATRだったが、
人気絶頂だった2001年にMCであるカール・クラックが急逝。ATRは解散することになる。
ATRの結成理由は先に書いたように、右傾化していく社会や、90年代のレイブカルチャーへの反抗だった。
もっと音楽にフォーカスするとわかりやすいかもしれない。
90年代の初頭のヨーロッパにおいて、レイブは自由で享楽的で開かれたカルチャーであった。
しかしそんな美しいカルチャーも、巨大資本の流入とともにその自由を失い、ドラックまみれになっていく。
資本主義がラブ・パレードなどの大規模イベントを金で腐らせていく様子を見ていたアレックは、
あらゆる抑圧への抵抗としてハニン・エライアス、カール・クラックと共にATRを始動させたのだった。
※すぐさまニック・エンドウも合流
ジョンレノンが体現したような「音楽による思想の具現化」に共鳴した感度の高いリスナーたちによって、
絶大に支持されながらARTのキャリアはスタートした。
その後3枚のオリジナルアルバムをリリースし、2001年にMCのカール急逝による解散。
以降アレックはATR結成前から行っていたようなソロワークに尽力するようになります。
バンド結成以前はブレイクビーツ以外にもアンビエント作品などを作っていたのですが、
この時期にはニューウェイブ方面にも理解を深めていきます。
素直にいいアルバムだな、と思える作品もありましたが、
多くのファンは「ATRみたいなサウンドはもう2度と聴けないのだろう」とさみしく感じていたはず。
そんなファンたちが狂喜乱舞したのが2010年。
ブルックリン出身のMC、CXキッドトロニックをフロントマンに加え、ATRが復活します。
いくつかの幸運な出来事が重なって、成り行きでそうなったんだ。
アレック・エンパイア
アレックも語るように、解散から10年ほど経過し、音楽業界も様変わりしていた中で復活したATR。
しかし90年代からインターネットや化石エネルギー依存への危険性に着目していたアレックの主張は、
00年代以降に起こった原発問題、紛争問題、メディアによる情報操作や各国の紛争などで揺れる世界に、より一層のリアルと共感を与えることになった。
アンダーグラウンドが主戦場だった彼らの主張に、メインストリームが耳を貸さざるを得ない状況になったとも言える。
もちろん、過激なATRのメッセージには反対意見も存在するが、
何の疑問もなく誰もが同じ方向に進み続けるよりはずっと良いと思える。
自分たちの未来を考えるためにも、オルタナティヴは議論されること自体に意味があるのだから。
そして2014年には新MCのラウディがバンドに加入し、現体制となる。
アタリティーンエイジライオット-ATRの魅力
外の世界を見て、自分ってダメな人間なのかなと思うことってあるよね。Nicが、そういう時はリセット・ボタンを押して、そんなの全部消してしまえ!って言ってるんだ(笑)。やり方はすごくシンプル。ただ、悪いことを受けつけなければいいだけ(笑)。自分が良くないと思うことには、賛同しなければいい。
アレック・エンパイア
ATRのバンド名の由来は、サウンドボードの機材のメーカー【ATARI】から取ったもの。
もちろん、その【アタリ】という言葉には、ビンゴ・幸運などのポジティブな意味も含まれている。
10代のによる初期衝動が、どうかポジティブな結果であって欲しいという掛け合わせのネーミングだそうな。
デビュー直後からメッセージ性以外のラウドな部分で注目され、意図しない部分での評価が高まっていくATR。
リスナーの増加に比例して、バンド内では深刻な問題が山積していきます。
特に大きな問題はメンバー同士の確執と、カールのドラッグ問題。
最終的にはナイン・インチ・ネイルズのオープニングアクトという大きな仕事をトばしてしまい、
(ハニンとカールは会場に現れなかった)
アレックとニックのみで強制決行したステージには避難が集中。
結果的にこのステージが決め手となりATRは活動を休止、カールの死亡によりバンドは空中分解する。
とはいえこの時の2人だけの事実上の解散ライブ(破壊活動?)も、今では語り種になっているし。
レッチリとかオアシスについて書いたときにも言ったけれど、
素晴らしいバンドには必ず人間の葛藤やドラマがあるものだから、
そんなところもATRの不思議な魅力になっているのかもしれない。
アタリティーンエイジライオット-ATRのおすすめ曲
ここからはATRのおすすめ曲を紹介してみます。
おすすめ曲を選ぶのがこれほど難しいバンドがいるだろうか?
曲というよりもアルバム全体で聴いて欲しいって感じです。
特に1stアルバムはDTMやハードコアが苦手なロック層の人でも、
ニルバーナとかピストルズのリフがサンプリングに使われていて聴きやすい(?)はず。
猛スピードの狂気のノイズビートに溺れろ!
あ、もう、ほんといつも偉そうにすみません。
1stアルバムDELETE YOURSELFから【SPEED】
サウンド・デモの具現化。1stアルバム【DELETE YOURSELF】は1995年のリリース。
1〜4曲目までの流れが文句なしにカッコいいけど、
メタリックギターと凶悪なBPMが鬼ヤバい【SPEED】を選んでみた。
この作品によって、やり場のないフラストレーションを持ったティーンエイジャーたちは、ATRを狂信するようになる。
いつ聴いてもものすげえパワーを与えられてしまうアメージングな一枚だけど、
ATRに慣れるとキャッチーな気がして何度でも聴けてしまう不思議。
2ndアルバムTHE FUTURE OF WARから【Destroy 2000 Years of Culture】
海を渡りアメリカにもその名が知れ渡った頃、ATRは2ndアルバム【THE FUTURE OF WAR】をリリース。97年。
デストローイ!って感じのライブでの人気曲をチョイス。貴重なTV出演映像。
スレイヤーのリフをサンプリングしているということで、知っている人も多いのでは。
この頃、日本でもギターウルフのリミックスをATRがやって話題になってた。
聞いた話によると、ATR側からギターウルフの音源を触りたいと連絡がきたらしい。
当時のことはよくわからないけど、なんかアレックの気持ちわかる気がする。
3rdアルバム60 Second Wipe Outから【Revolution Action】
アクション!!!!!!
Revolution Action
熱く生き熱く死ね!!!!!!
3rdアルバム60 Second Wipe Outから【Revolution Action】を。
アクショーーーーーーン!!!!!!
って言いたなっちゃう不屈の3rdアルバムのオープニングナンバー。
99年にこのアルバムがリリースされた頃がATRの絶頂。
アクショーーーーーーン!!!!!!
しかし激しすぎた彼らの活動にバンドが耐えきれなくなる形でATRは終わる。
3rdアルバムが一番聴いたかもな、ダサいのかカッコいいのかよくわからないラインなのがめちゃイケてる。
このダサカッコ良い名盤が、全世界のロックキッズたちに革命を巻き起こしたのだ。
アクショーーーーーーン!!!!!!
アクショーーーーーーン!!!!!!
アクショーーーーーーン!!!!!!
俺たちのATR・アタリティーンエイジライオット【まとめ】
おすすめ曲で紹介した3枚のアルバムの後、再結成以降も2011年に4th、2014年に5thをリリースしているATR。
この間、MCはCXからラウディにチェンジ。
新たなメンバーを得て「過激で凶悪なサウンド」はますます先鋭化し、トレンドであるEDMも飲み込んだ。
そもそもEDM自体も元を辿れば初期のレイブ・カルチャーからの派生であり、
カルチャーの創世記に生まれたATRが鳴らすのは、なんだか感慨深いものがあります。
ATRは語りかける。メッセージを投げかける。
溢れる情報が正しいのか、そうでないのかを自分で判断しろと。
自分で決めろと、他者に自分の未来を選ばせるな、と叫び続ける。
再結成後もひたすらにアナーキーで、相変わらずな反キャピタリズムな精神を示し続ける彼ら。
一部の利権者が牛耳る腐った社会を批判しまくる、90年代からブレない痛烈なメッセージと闘争姿勢は、
2023年の現代にこそ必要なのでは、と考えずにはいられない。
地球ってめちゃくちゃ体力あるし、回復力もすごいんだけど、
世の中ではそれ以上の負荷をかけて作られた物がたくさんある。
やっかいなのは、そういうものに限って手に取りやすい場所に並んでいたりする。
でも、やっぱりそうじゃない物の割合を増やしていきたいって思ってる人もたくさんいて、
いまの自分はそっちのほうが気が合う感じだ。
ATRはバンドとして派手なサウンドで知られていることが多いけれど、
彼らの本当にすごいところは、
「権力」「資本」「武器」に頼ることなく、
「音楽」のみで、闘い続けているところだ。
ジョンレノンやボブマーリーがやろうとしたことをやっているのである。
太陽に近づきすぎている。ATRはイカロスに同じかもしれない。ロウで固めた鳥の羽は溶けて落ちるのか。
イカロスはダイダロスの息子。ダイダロスはエウパラモスの息子。アナキズムの系譜。
この記事で記したようなバンドの劇的な足跡なんか知らなくても、
ATRの音源を聴いてさえくれれば、その熱さが必ず分かるはず。
できればライブでそのエネルギーを体験できるといいのだけれど。
もしそのエレルギーを受け取れたなら、
そのエネルギーを気持ちのいい場所に循環させるための行動をして欲しい。
そうすればロウで固めた鳥の羽は、世界を変えられるかもしれない。
自分がどんなアクションをしていくか決める上では、
今のことも、遠い未来のことも、等しく重要なことだと、
アタリティーンエイジライオットは教えてくれている。