【読書感想文】池澤夏樹 著・スティルライフを読んで【ただの日記】

目次

イチロー読書感想文・スティルライフについて

こんばんは。最近は音楽の話ばっかりだったから今日は久しぶりに読書感想文の日。こう見えて読書好きなんです。えへへ。

池澤夏樹さんのね。スティルライフを読んだんです。イチローが生まれた頃の作品なのに、全然古臭さがなくて引き込まれてしまった。

透き通った文章の奥に存在する、サイエンスな香り。なんだこれは。味わったことのない読書感覚に戸惑いながらもページをめくる手が止まらない。

最近なんだか考え込んでしまって筆が止まってしまうことが増えた。今日は頭で考えるよりもシンプルに、ただ書いてみたいと思っている。

作中にあったような地球上の万年の積み重ねを思いながら。ひとりのちっぽけさを感じながら。この作品について書いてみようかなと。

そんなわけで、今日は読書感想文。スティルライフのお話。

『スティル・ライフ』は池澤夏樹が「中央公論」1987年10月号に発表した中編小説で、第98回芥川龍之介賞と第13回中央公論新人賞を同時に受賞した。初めてワープロで書かれた芥川賞受賞作としても知られている。タイトルのスティル・ライフとは静物画の意味であるが、池澤自身は「静かな生活」の意で捉えている。

wikipediaより
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スティルライフのあらすじ

感想文を書く前に簡単にスティルライフのあらすじを。

染色工場でアルバイトする主人公の「ぼく」と、どこか達観した雰囲気を持つ「佐々井」との物語。

双方とも、職を転々とする気ままな生活を送っており、ふとしたきっかけで一緒に酒を飲む間柄になる。

主人公は人生というものを何につぎ込むべきか漠然と悩んでおり、自分と同じような境遇の佐々井に対してシンパシーを感じつつも、同時に自らが必死に探しているものをすでに手にしてしまっている感覚を持つ。

少なくとも、彼はぼくと違って、ちゃんと世界の全体を見ているように思われた。

大事なのは全体についての真理だ。部分的な真理ならいつでも手に入る。

スティルライフ

主人公はある日、佐々井から金銭にまつわるある計画を持ちかけられる。

好奇心からその計画を受け入れる「ぼく」。

ふたりは自ら自分のことを深く語ったりはしない。たがいを追求したりもしない。

ある一定の距離感を保ちながらも、お互いにゆっくり影響を与えながらその計画は進んでいく。

妙なことになったなと思った。しかし、その頃ぼくは妙な話をすべて歓迎するような心境にあった。

スティルライフ

スティルライフを読んで思うこと

そしてここからが読書感想文。なんでしょうね〜この読後感は…ふわふわした感覚は。

化学と文学の要素がここまで自然に調和している作品を読むのは初めてだったから、すごく不思議な体験だった。

きれいな文体だな…と思って読んでいると、意識の外側からサイエンスの光が差し込んできて、自分の予定調和脳を裏切ってくる。

温もりや哲学的な要素もすばらしい。文章で解説したらこの記事では収まりきらないくらい多様で複雑なものを表現していると思う。

30年以上前の作品なのに、予想のつかない前衛的な描写は、どこか神秘的だとすら思える。

大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。たとえば、星を見るとかして。

スティルライフ

予想がつかないといえば、物語は専門的な染色の話から始まるのだが、佐々井の計画を中心とし、読者の思わぬ方向へと話が流れて行く。

全てが終わった後、佐々井は主人公の元を去り、「ぼく」自身もゆっくりと日常に帰っていく。大きな起伏が途中に存在するわけじゃない。

別の世界へ踏み出すような雰囲気を感じつつも、現実の世界にとどまる主人公への印象は、読み手に100%委ねられていている。

若くして達観した様子のふたりには、どこか現代的ミニマリズムな空気感が漂う。

特にそのことに言及する箇所もなかったと思うけど、このふたりは常に自分の居心地の良い場所を知っていて、そこに身を置いているんだろうと感じる。

読んでみて古臭さを感じることがないのは、このあたりにも理由があるのかもしれない。

十年先に何をやっているのかを今すぐに決めろというのはずいぶん理不尽な要求だと思って、もくは何も決めなかった。

社会は早く決めた奴の方を優先するらしかったが、それはしかたのないことだ。ぼくは、とりあえず、迷っている方を選んだ。

スティルライフ

飄々と放浪生活を送る佐々井へのイメージがそうさせるのか、作品内で印象的なのが登場人物の冷静さと、俯瞰的な目線だ。

もっと言えば、各々がニヒリストなのではなく、それぞれが自身の人生を存分に愛している。それが文章から伝わってくる。

(これは後半に収録されている「ヤー・チャイカ」にも通じている感覚)

愛着を伴った客観性を駆使しつつ、宇宙の微粒子や、海に降る雪に思いを馳せるその描写は、大切な友人が描いた温かい静止画を思わせる。

自分はいつからか、劇的な展開のためにわざわざ殺されてしまうキャラクターに感情をのせることが困難になってしまったので、何かを哲学的に伝えようとしてくる本を好むようになった。

文章にイメージが追いつかないと、なんだか疲れそうな気がして早めにコーヒーを淹れたり、空を見たりするんだけど、この作品は読んでいてそういうことがまるでなかった。

静かな本なのだ、文章・センテンス・リズムが美しい風景みたいに流れて行く。

雪が降るのではない。雪片に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。

静かに、滑らかに、着実に、世界は上昇を続けていた。

スティルライフ

ここまで書いといてなんだけど、自分的にこの物語の筋なんかは割とどうでもいいのかも。本文の中においても有益性みたいなものは全く重要視されていないし、そういった部分にも深みや豊かさを感じる。

宇宙の話と現実的な金銭の話の振れ幅は、そのまま佐々井というキャラクターの奥行きになっている。

星や山の話を重ね、どんどん透明な存在になっていく彼にシンパシーを感じつつも、自分と外側の世界とを明確に認知している主人公は、この世界の軸になる。

読者に思考の余地を存分に与えて物語は終結し、主人公である「ぼく」の手を伸ばす範囲が、そのまま馴染んで読者の人生になっていく。そんなことを想像してしまう。

この本は世界と一緒だ。見逃してしまいそうになる言葉の中に、描こうとしているイメージの真意がいる。シンプルな物語はその言葉の意図を読者に汲み取らせるための容れ物なのかもしれない。

世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐ立っている。

きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。

でも世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

スティルライフ

スティルライフ・読書感想文・考察まとめ

って感じで今日は読書感想文の日でした。

自分が年末年始にこの本を繰り返し読んでいたこともあって、なんだかすっかり冬の夜のイメージがついた物語になった。

2編収録の表題作である「スティルライフ」の後には、シングルファーザーとその娘のお話である「ヤー・チャイカ」も収録されている。

こちらも独特な雰囲気を放つ不思議な魅力を持った文章だった。

2つの物語は繋がっているようで、特に繋がりはなく、考えようによっては緊密である。このへんの考察をしてみても面白いのかもしれない。

「ヤー・チャイカ」では娘が空想の中で草食恐竜を飼っているのだけれど、その描写は逃亡中の身である佐々井の発言を思い起こさせる。

これは草食動物の暮らし方なんだ。

つまりは、はぐれ者の、一匹だけの草食動物さ。

スティルライフ

社会の中で人並みの生活をすることは、考え方によってはとても大変なことのように思える。

その中で生き延びるために、自分の内面に自己世界を作ることは特段珍しくもないことだ。

その自己世界を実社会と擦り合わせていこうと試みるのが佐々井。忘れてしまおうとするのが「ヤー・チャイカ」の娘。

いつか忘れられてしまう自己世界のメタファーとして、佐々井が物語を超えて機能していることがわかる。

主人公である「ぼく」は自己世界とどのように折り合いをつけていくだろうか。

でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。

スティルライフ

語られる言葉の中に奥深い知性を感じるけれど、やはりこの作品の特筆すべきことは『語られることのない側面』だと感じた。

その言葉と言葉の間にある空白が、潔くすっきりとした詩的な文章を作っているのだと考える。

帯に書かれているように“科学と文学の親和”なんて聞くと、とても難しい世界観なのかな、と感じてしまうけれど、全然そんなこともなくてすごく読みやすい。2時間もあればじっくり全部読めちゃう。

日常を離れた浮遊感のある読書体験をしたいなら、すごくオススメできる作品です。

考えていることと、自分が何を思えるかが重要で、信念とか、意義とか、そういうのはあんまり気にしない方がいいかな、と思う。

なるべくものを考えない。意味を追ってはいけない。山の形にはなんの意味もない。意味のない単なる形だから、ぼくはこう言う写真を見るんだ。意味ではなく、形だけ。

スティルライフ

自分の理解力が追いついていればいいのだけれど、どうにも自信がない。こうして書いていてもなにか見当違いのことを言っているような気分にもなる。読んでもらうとわかるけど、実際の情報量はそれほど多くない。でもだからこそ読書って面白いわけで。

このくらい余白がある作品が、今の自分には調子がいいみたいだ。チューニングが合ってるって感じがする。

そんなわけで、言葉にできないことは無理に言葉にすることもないかなぁと。これからもあんまり無理せずに日記感覚で文章を書いていきたいと思っています。

今日も最後まで付き合ってもらってありがとうございました。おやすみなさい。

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